相手の心理的背景を理解することは、適切な対策を講じる上で非常に役立ちます。
相手が抱える本音や事情を知れば、前述した各種アプローチのうちどれを重点的に使うべきか見えてくるでしょう。

心理背景1:「親権を取られて役割を奪われた」
親権を持てなかった側の親には、「自分は親として負けた」という被害者意識がある場合があります。
特に激しい親権争いの末に譲らざるを得なかった人ほど、その思いが強い傾向です。
「自分の意見を無視して親権を持っていったのだから、今後の子どものことは全部そっちで見るべきだ」という卑屈さや怒りに似た感情を抱えており、それが養育費拒否につながります。

心理背景2:「面会できない腹いせ」
こちらも典型的で、子どもと会わせてもらえない不満から「会えないなら金も払うものか」という心理です。
元配偶者への報復や当てつけの意味合いが強く、「自分ばかり損をしている」という被害者意識が背景にあります。
つまり、養育費未払いを人質にして面会交流を要求しているような状態とも言えます。

心理背景3:「収入が減ったから仕方ない」
経済的事情が心理背景になっているパターンです。
リストラや収入ダウン、病気や怪我による離職などで生活そのものが逼迫しており、「払いたい気持ちはあるが物理的に苦しい」もしくは「自分の生活で精一杯で余裕がない」という心理です。

心理背景4:「元妻(夫)が再婚したから自分の役目は終わり」
相手(受取側)が再婚した場合に、「もう元妻は新しい家庭ができたんだから、そっちで子どもも面倒見るだろう。自分は払わなくてもいいはずだ」という勝手な理屈を抱くことがあります。
法的には間違いで、再婚しただけでは義務は消えませんが、心理的には「自分だけが負担するのは不公平だ」という思いです。

心理背景5:「母親(父親)が浪費しているから払いたくない」
これは支払う側が、受け取る側(親権者)の金銭管理や生活態度に不信感を抱いているケースです。
例えば「元妻が養育費を子どものために使わず自分の贅沢に使っているのでは」という疑念や、「十分実家の援助があるのに自分だけ負担するのは納得いかない」といった感情です。
Yahoo!知恵袋などでも「元嫁が養育費をパチンコに使ってる」「ちゃんと子どもに使われてるか分からないから払いたくない」といった声が見られます。

心理背景6:「新しい家庭・複数の扶養で手が回らない」
支払う側が再婚して子どもが生まれたり、あるいは別の女性との間にも子どもがいて扶養家族が増えている場合、単純に支出が増えてキャパオーバーとなっている心理背景です。
特に男性で多いですが、「今の妻との子も養わなきゃだし、前の子にまで払う余裕ないよ」という現実問題が動機です。

心理背景7:「元配偶者への恨み・仕返し」
離婚原因によっては、元配偶者への強い怒りや恨みから養育費を人質に嫌がらせしている場合もあります。
例えば、離婚原因が相手の浮気であったりDVであったりして「慰謝料も取られた。もう金なんか払いたくない」と頑なになっているケースです。
または、離婚時の話し合いで揉めた恨みが残っていて、「悔しいから払ってやらない」と意地を張っていることも。
「元妻に対して報復してやりたいという心理」がこれに当たります。

心理背景8:「自分の問題で手一杯(鬱や依存症など)」
精神的な疾患やアルコール・ギャンブル等の依存症、または犯罪トラブルで服役中など、本人のコンディションが著しく悪く養育費どころではないケースもあります。
例えばうつ病で働けない、人間不信に陥って連絡自体を拒絶しているなどです。
この背景の場合、そもそも交渉の土俵に相手が上がれない状態なので、心理術以前の問題になってしまいます。

これらの心理的背景は一人の人間に複数当てはまることもあります。
例えば、「面会できない腹いせ」と「再婚して新家庭優先」が両方あるとか、「収入減」と「鬱状態」が重なっているなど複合的です。

実際に弁護士によるインタビューをまとめた書籍『養育費実態調査 払わない親の本音』には、払わない理由として「子どもと会えていないから実感がない」「母親(元妻)が再婚して他人の子を育てるようで嫌だ」などの声が紹介されています。
また、ある調査では未払い者の理由として「自分は親権を取れず納得いかなかった」「面会させてもらえない」「収入が減った」が多く挙げられています。
データから見ても、上記のような心理背景が多いことがわかります。
あなたの元配偶者がどのタイプなのか見極めることで、「なるほど、だからあの時ああ言っていたのか」と合点がいくかもしれません。
