養育費を自発的に払わせるためのテクニック5選

養育費を自発的に払わせるための動機づけテクニック

相手が養育費を支払いたくなる」というのは一見難しい命題ですが、要するに相手の内なるモチベーションを引き出す伝え方を模索しようということです。

人は強制されたり責められたりすると反発したくなりますが、自分から「払おう」と思えれば行動に移しやすくなります。

こちらでは、相手の自発的な支払い意欲を高める養育費請求の仕方を具体的に解説します。

心理学の動機づけの原理を活用して、相手の心に火を付けるアプローチを考えてみましょう。

ポジティブなフィードバックで「承認欲求」を満たす

誰しも、自分が誰かの役に立っていると思えたときや、感謝・称賛されたときにやりがいや責任感を感じるものです。

養育費の支払いも、本来は「子どものために役立っている」というポジティブな行為ですから、そこを強調して相手の承認欲求を満たすことが効果的です。

具体的には、相手が支払ってくれた養育費で子どもがどんなに助かっているか子どもがどれだけ感謝しているかを伝えます。

たとえば、「先日いただいた養育費で〇〇(子ども)の制服を買いました。あなたのおかげで新しい制服を着せてあげられて、〇〇もとても喜んでいました。」といった報告をするのです。

これは相手に「自分は父親(母親)としてちゃんと役に立っている」という実感を持ってもらう狙いがあります。

弁護士の木下氏も、「養育費を払ってもらったら感謝を伝える」「子どもにも、お父さん(お母さん)からの養育費で助かっていると話す」ことを勧めています。

実際に木下氏の経験上、そうしたことを実践していると、支払いが継続している傾向があるとのことです。

子どもから「お父さん(お母さん)ありがとう!」と言われれば、たとえ嫌々でも払っていた人も「また頑張ろうか」という気持ちになるものです。

一方で、逆にこちらが相手の悪口ばかり子どもに吹き込んでいたりすると、子どもが相手に会ったときに憎まれ口を叩いたりして、相手は「可愛げがない」「もう金なんか払いたくない」と感じてしまう危険もあります。

相手の親としてのメンツを立て、良い親であろうとする気持ちを育てることが、結果的に「払いたい」というモチベーションにつながるのです。

子どもとの交流や面会を促す

相手が養育費を支払いたくない背景には、子どもとの心理的距離が関係している場合があります。

とりわけ父親側(元夫)の心理として、「子どもに会わせてもらえないのに金だけ払うのは納得いかない」という不満がしばしば聞かれます。

実際、ある調査では、面会交流(離れて暮らす親と子が会うこと)をしている家庭の方が、養育費の支払いが継続される割合が高いという相関結果も出ています。

そこで、「支払いたくなる」環境を作る一つの策として、相手と子どもの交流機会を確保することが挙げられます。

もし面会交流を制限していたり滞っていたりするなら、こちらから積極的に面会を提案したり、近況報告の写真や手紙を送ったりしてみましょう。

極端に言えば、子どもと直接会うのが難しくても、オンライン面会(ビデオ通話)や子どもから相手への手紙など、何らかの形で親子の絆を感じられるように工夫します。

相手が子どもに対して愛情やつながりを実感できれば、自然と「子どものために何かしてあげたい」という気持ちが芽生えやすくなります。

その「何か」に養育費の支払いが含まれるのは言うまでもありません。

裏を返せば、子どもと何年も会っておらず実感が希薄になると、「もう自分の子どもじゃないみたいだし、払う意義を感じない」となりがちです。

実際に4年間きちんと払ってきた父親が、「4年以上娘に会っていない。親子の実感がない」と言って支払いをギブアップした例もあります。

親子の交流は、養育費支払いの原動力になると言えるでしょう。

豆知識

法的には、養育費の支払いと子どもの面会交流は直接の交換条件ではありません。

たとえ養育費を払っていなくても子どもに会う権利はあるし、逆に会えなくても養育費を払う義務はあります。

しかし、現実の人間心理としては「子どもに会わせてもらえないから払いたくない」「払ってないのに会わせろと言うな」という感情が起こりがちです。

面会交流と養育費は車の両輪のような関係にある、と心得ておくとよいでしょう。

チェック 養育費を払わないなら会わせない?面会交流と養育費が「交換条件にならない」理由と対処法

減額や支払方法の柔軟な提案で相手に「恩」を感じさせる

相手がお金を払いたがらない理由が、経済的な負担感にある場合は、こちらから一時的な減額や支払方法の変更を提案することで、相手の心を動かすことができます。

これは心理テクニックとしていうと、相手に恩を売る(助け船を出す)アプローチです。

例えば、相手が「収入が減って払えない」と泣き言を言っているなら、「では今後半年間は月○万円に減額して、その後元に戻すことを検討しましょうか」とこちらから提案するのです。

または、「ボーナス時にまとめて払う方法でも構いません」と相手の都合に合わせた支払プランを提示してもいいでしょう。

こうした柔軟な対応策は、相手にとって「自分の事情を理解してくれた」「助かった」と感じるポイントになります。

大事なのは、その際に「あなたが大変な状況なのは分かるから、こちらも譲歩します」という姿勢を明確に伝えることです。

人は借りを作ると返したくなる心理が働きます。

こちらが譲歩したぶん、「そこまで言うなら払わないと申し訳ないな」という気持ちにさせるのです。

弁護士サイトでも「経済的に厳しい相手の場合には、一時的に猶予・減額して調整してあげる」ことが、男性に養育費を払おうという気持ちにさせる方法の一つとして挙げられています。

ただし、減額提案をする際は必ず期限や条件を取り決めるようにしましょう。

漫然と「苦しいなら減額でいいよ」では、そのまま低額しか払わなくなってしまいます。

半年後にまた状況を見て元の額に戻す」「今回ボーナス払いにしたら来年以降は遅れない」など、具体的な約束を取り付けます。

そしてそれを文書に残す(メールでも可)ことを忘れずに。

相手に恩を感じさせつつ、こちらも損しすぎないラインを守ることが大切です。

子どもの未来像を共有し「責任感」を喚起する

相手が支払いたくなる動機付けとして、子どもの将来の話題を共有するのも効果があります。

子どもの夢」や「進学プラン」、「こんな大人になってほしいね」というポジティブな未来像を語り、それを実現するために養育費が必要不可欠であることを説くのです。

例えば、「○○(子ども)が将来野球選手になりたいと言ってるの。今度リトルリーグに入れようと思うんだけど、その費用も少しかかりそうなの」とか「○○は数学が得意だから理系の大学に行かせてあげたいね。そのためにも高校は私立の進学校を目指そうかと考えてるの」など、子どもの夢や目標を具体的に伝えます。

その際に「親として一緒に応援してあげたいよね」と声をかけることで、相手にも親としての当事者意識を持たせます。

人は自分が関わっているプロジェクトや目標には責任感を感じます。

子どもの将来というプロジェクトに相手を巻き込むことで、「自分も支えなければ」という使命感を刺激するのです。

大学進学までにはあと○年。その間一緒にがんばろう」という言い方をすれば、相手も自分事として捉えやすくなるでしょう。

養育費が単なる金銭トラブルではなく、「子どもの夢を叶える共同ミッション」だと思えば、支払いの意義を前向きに捉え直すきっかけになります。

心理的な「損失回避」の傾向を利用する

心理学には「人は利益を得ることよりも損失を避けることに強く動機付けられる」という理論があります。

これを損失回避バイアスといいます。

この傾向を活かし、相手に「養育費を払わないことで失うもの」を意識させるのも有効です。

例えば、「もしこのまま養育費を払ってもらえないと、将来○○(子ども)があなたに失望してしまうかもしれない」とか「子どもが大きくなって、なぜ払ってくれなかったのかと詰め寄られたら辛い思いをするのはあなたよ」といった具合に、支払わないことで相手自身が被るデメリットを匂わせます。

これは直接「払わないと損だよ」と言うよりも、じんわりとプレッシャーをかけるニュアンスで語るのがコツです。

また、「養育費を払っていれば将来もしものとき(子どもとの関係修復など)にも胸を張れるけど、このままだと…ね?」と将来の後悔を想起させる手もあります。

人は未来の損失を想像すると、それを避けようと現在の行動を改めることがあります。

このままだとヤバいかな」と思わせたら勝ちです。

ただし、あまり脅すような言い方をすると反感を買うので、あくまで心配しているふりをしながら言及するくらいが良いでしょう。

以上、相手が「自分から払おうかな」と思えるような養育費請求のテクニックを紹介しました。

要点をまとめると

  • 相手の承認欲求を満たし、良い親でいたい気持ちを刺激する。
  • 親子交流を促して子どもへの愛情と責任感を高める。
  • こちらから譲歩や提案をして恩を売り、返報性を働かせる。
  • 子どもの未来の話を共有し、目標達成への協力意識を芽生えさせる。
  • 払わないことのデメリットや将来の損失を示唆し、危機感を持たせる。

これらを組み合わせてアプローチすれば、ただ単に「払って!」と懇願するよりも遥かに高い効果が期待できます。

相手の心の中に「払わないと自分が損をするし、払えば自分も嬉しい」という状態を作り出せればしめたものです。

心理ゲームに勝って、相手の自発的な行動を引き出しましょう。