養育費を払わない相手と一口に言っても、その心理状態や理由は人それぞれです。
相手がどんな心理にあるかによって、有効な交渉術も変わってきます。
こちらでは、相手の心理状態別に、効果的な交渉アプローチを紹介します。

ケース1:親権を取られたことに「反発・嫉妬」している場合
心理状態
離婚時に親権を相手(あなた)に取られたことに対し、「自分は父親(母親)として負けた」という被害者意識や嫉妬心を抱えているケースです。
「親権を奪われた」という心理状態になり、「そっちが一人で育てるって言ったんだから自分は関与しなくていいだろう」という意固地な気持ちが根底にあります。
交渉術
このタイプには、まず相手の無念さやプライドを認めることが出発点です。
「親権は私が持つことになったけど、あなたが子どもを愛していないとは思っていない」とか「離婚当時は色々あってこうなったけど、あなたも本当によく頑張ってくれていた」といった言葉で、相手の父親(母親)としての存在意義を否定していないと伝えます。

その上で、「親権は私だけど、子どもにはあなたも必要」というメッセージを伝えます。
「私は一人じゃ十分にしてあげられない部分もあるから、一緒に支えてほしい」とか「子どもにとってお父さん(お母さん)は私には埋められない大事な存在だよ」と言ってみましょう。
相手の中の父性・母性をくすぐり、「自分も役割を果たそう」と思わせるのが狙いです。
決して「親権は私にあるんだから払って当然でしょ」などと言ってはいけません。
それでは余計に反発を招きます。
むしろ、「親権者として私も責任を果たす。でもあなたにしかできないこと(経済的支え含む)もある」というスタンスで協力を求めます。
プライドを尊重しつつ共同戦線に引き込むイメージです。

ケース2:面会させてもらえず「腹いせ」に払わない場合
心理状態
子どもと会わせてもらえない、あるいは交流がうまくできていないことへの不満から、「会わせてくれないなら金も払わない」という腹いせ・報復心理で未払いに及んでいるケースです。
これは割と典型的で、子どもに会えない寂しさや悔しさを養育費不払いという形で相手にぶつけている状態です。
交渉術
このタイプへの対処はシンプルで、面会交流について歩み寄ることが先決です。
面会と養育費は法律上は別問題ですが、心理的には密接に絡んでいます。
ですから、「養育費払ってほしいなら子どもに会わせて」という言い分には、一理ある部分も認めて交渉することが重要です。

例えば、「今までは会わせるのをためらっていたけど、これからは月一回は直接会う機会を作りましょう」と提案します。
あるいは「子どもも会いたがっているし、夏休みには一緒に過ごす日にちを作りませんか?」などです。
相手にしてみれば「そこまで言うなら払うか」という気持ちになるかもしれません。
また、直接会うのが難しい事情がある場合には、せめて写真や成長記録を共有するとか、オンライン面会するとか、代替案を提示します。

それが得られれば、腹いせで払わないというモチベーション自体が薄れてきます。
交渉の際には、「今は面会があまりできていなくてごめんなさい。子どもも本当はもっと会いたいと思っているし、私もできる限り協力します。」と素直に歩み寄る言葉を伝えましょう。
「だから養育費を払って」と直結させずとも、相手は「子どもに会えるなら払ってもいいかな」という気持ちになるかもしれません。

ケース3:収入減・リストラで「金銭的に余裕がない」場合
心理状態
リーマンショックやコロナ禍、不景気などで収入が減ったり失業したりして、本当に経済的に苦しく、払いたくても払えない状態か、もしくは払うと自分の生活がキツいので優先順位を下げてしまっているケースです。
心理的には、「自分だって大変なのに、これ以上無理」という追い詰められた気持ちか、「余裕ができたら払うよ」と問題を先送りにして現実逃避しているかのどちらかでしょう。
交渉術
このタイプには、まずは相手の苦境に理解を示すことが重要です。
「収入が下がって辛いよね」「突然仕事を失って不安だよね」と、相手の現状をねぎらう言葉をかけます。

「じゃあ、今の状況で無理なく払える額や方法はないかな?」と二人でプランを練る提案をします。
例えば、「じゃあボーナスが出たときにまとめて払うのはどう?」「半年間は半額にして、後でその分少しずつ上乗せして返してもらう?」など、こちらから代案を出してみます。
これは前述した恩を売る方法(減額案)にも通じますが、相手としても「そんなことまで言ってくれるのか」と気持ちが楽になり、今できる範囲で払おうという前向きな意欲が湧きやすくなります。
実際に弁護士のサイトでも、「経済的に厳しい相手の場合には、一時的に猶予・減額して調整してあげる」ことで、相手が払おうという気持ちになることがあると指摘されています。
ここで大切なのは、相手を責めないことです。
「なんでもっと稼げないの?」などと言っては絶対にいけません。

もし相手がとても素直に状況を話してくれるなら、一緒に家計を見直すくらいの勢いで踏み込んでもいいでしょう。
「じゃあ生活費で無駄を省けるところはない?タバコ代とか少し減らせないかな?」といった感じです。
これは難しいかもしれませんが、言える関係性ならやってみる価値はあります。
家計改善アドバイザーくらいの気持ちで、支払い原資を確保する手助けをするのです。
ただし、相手が本当に極貧状態で支払能力がない場合は、最終的には公的支援や法的解決(強制執行しても取れないなら諦めるなど)も視野に入れなければなりません。
このケースでは無い袖は振れないので、心理術にも限界はあります。

ケース4:相手が再婚・新家庭を持ち「優先度が下がっている」場合
心理状態
相手が再婚して新しい家庭・子どもを持ったことで、元の子どもへの関心やお金の優先順位が下がっているケースです。
「今の家族が一番大事」「元妻(夫)との子にはあまり関わりたくない」と思っている可能性があります。
また、新家庭の出費が増えて単純に余裕がなくなっている場合もあります。
交渉術
この場合、相手だけでなく新しい配偶者(再婚相手)の心理も影響していることが多いです。
新しい妻(夫)が「前の家庭にお金を払うなんて嫌」と言っていれば、相手も肩身が狭くなり滞納することが考えられます。
従って、ここでは再婚相手をも巻き込んだ交渉術が必要になることもあります。

「あなたに新しい家庭ができても、○○(子ども)はあなたの血の繋がった子どもであることは変わりません」と静かに伝えます。
法的にも再婚しただけで養育費義務はなくならないことを認識させる必要があります。
ただしそれだけでは動かないので、新家庭と元家庭の両方を守る方法を一緒に考えるスタンスが有効です。
例えば、「再婚相手の方にもご負担かけて申し訳ないと思ってる。だから、もしよかったら状況を伺って、こちらもできる譲歩はしたい」と切り出します。
新しい家に子どもが生まれたのなら、「新しいお子さんも可愛い盛りですよね。そちらも大変でしょう」と理解を示します。
その上で、「ただ、○○(元の子)にとってはあなたは唯一のお父さん(お母さん)だから、そこはどうしてもお願いしたい」と譲れない一線を伝えます。

また、「今の奥様(旦那様)にもご理解いただけると助かる」といった言葉で、再婚相手にもあなたが敵意を持っていないことを伝えると良いでしょう。
下手に新しい奥さん(旦那)を非難すると余計に固くなりますから、むしろこちらは礼儀正しく接します。
場合によっては、相手のご両親(子どもから見れば祖父母)に協力してもらうのも手です。
「孫のために、息子(娘)にちゃんと支払うよう言ってほしい」とお願いすることです。
祖父母が孫可愛さに援助してくれるケースもあります(それはそれで複雑ですが…)。

心理状態
特別な深い理由はなく、単に性格的にルーズだったり先延ばし癖があったり、養育費支払いを「まあそのうちでいいや」と軽く考えているケースです。
悪気がない(ように見える)だけにタチが悪いですが、危機感や責任感が欠如している状態です。
交渉術
このタイプには、もうとにかく繰り返し督促して現実を認識させるしかありません。
本人に悪意がないなら、こまめにリマインドすることで「あ、また忘れてた」と思い出させる戦術です。

俗に言う「根負け」を狙うわけです。
例えば、毎月決まった日に「今月分よろしくお願いしますね」と優しくリマインドメールを送るとか、入金がなければすぐ「お忘れかと思い連絡しました」と伝えるなど、ペースを作ってしまいます。
相手が「うるさいな」と思っても、こちらは丁寧にしかし粘り強く続けます。
すると相手も「いちいち催促されるのも面倒だし、払って静かにしてもらおうか」という心理になりやすいです。

あくまで事務的に、しかし確実に通知を重ねるのです。
まるでクレジットカードの支払い案内のように、「◯月◯日のご入金確認できておりません」のような淡々とした連絡でも構いません。
ポイントは相手に「放っておいても済まないんだ」と悟らせることです。
督促を放置すればされるほど連絡が来る、下手すると内容証明や法的措置になる、と徐々にプレッシャーを強めます。
ルーズな人は、ケジメをつけさせると案外それを守ったりします。
最初は調停や公正証書で取り決めをしていない場合でも、後からでも文書で約束を交わすのも良いでしょう。
「○○円を毎月○日に支払う」旨を書面化してサインさせれば、多少自覚が芽生えます。

以上、相手の心理状態・タイプ別に交渉アプローチを解説しました。
現実には複数の心理要因が絡んでいることも多いですが、「この人はいま何を感じているのか?」を考えて戦術を選ぶことが大切です。
相手の心理に合わせて、時にはアメを、時にはムチを使い分けながら、交渉を進めましょう。

そのために、相手の心を読むことも交渉術の一部だと心得てください。