相手が養育費の支払いに応じない場合、最後の手段として強制執行(強制的な取り立て)を行うことができます。
中でも有力なのが、相手の勤務先の給与を差し押さえる方法です。

強制執行とは
強制執行とは、裁判所の力を借りて相手の財産から強制的にお金を取り立てる手続きです。
養育費の場合、強制執行を行うには債務名義(執行力のある文書)が必要です。
具体的には、調停調書・審判書・判決文・公正証書などが該当します。

給与差押えの仕組み
相手が会社勤めで安定収入がある場合、給与差押えは非常に有効です。
裁判所から会社(第三債務者といいます)宛に差押命令が出されると、会社はその人の給料のうち一定額を本人に払わず差し押さえて、代わりにあなた(申立債権者)に支払う義務を負います。
法律上、給与の差押えは手取り額の2分の1までという上限があります。
例えば手取り月30万円なら最大15万円まで差押え可能です。

給与差押え成功の体験談
Aさんの体験談
Aさんのケースでは元夫の銀行給与を差し押さえ、未払い分の約160万円を一括回収し、以後毎月の養育費も会社経由で確実に受け取れるようになりました。
元夫から「職場で立場がないから取り下げてくれ」と懇願されたものの、Aさんは拒否し続け、最終的に元夫は根負けした格好です。
「差押えなんて大げさかなと迷いましたが、子どものためと思い腹を括りました。結果的に一番確実な方法でした」とAさんは語ります。
Bさんの体験談
また、Bさんのケースでも、公正証書を元に給与差押えを行い、元夫の会社とやり取りして滞納分を分割回収することに成功しています。
「勤務先から直接支払ってもらえる形になったので安心感が違います」というBさんの言葉通り、会社経由の支払いなら相手が意図的に支払いを止めることはできません。
Cさんの体験談
さらに、Cさんのケースでは、13年分の未払い養育費を回収すべく年金機構から得た情報を元に元夫の勤務先を突き止め、給与差押えに踏み切りました。
長年海外転居などで所在不明だった相手にも、強制執行の網をかけることができたのです。
「連絡が取れなくても、年金記録などから勤務先を割り出せると知って希望が湧きました。半信半疑でしたが実際に差押えできて感動しました」とCさん。
民事執行法の改正(2020年施行)により、養育費のような一部の債権では勤務先情報の取得手続きを申し立てることが可能になっています。
Cさんはまさにこの制度を活用し、13年ぶりに養育費の支払いを受けられるようになりました。
強制執行の手続きについて
給与差押えを行うには、まず相手の勤務先を把握している必要があります。
相手の職場や収入源が不明の場合は、先ほどの情報取得手続きを利用したり、興信所に頼む、住民票・年金記録を調べるなどの手段で特定します。
勤務先がわかれば、管轄の裁判所に債権差押命令の申立てを行います。
申立書には債務名義となる調書や判決文、公正証書を添付し、差し押さえる債権(給料)や第三債務者(会社)の情報を記載します。
申立てが認められると、裁判所から会社に差押命令が送達され、効力が発生します。
注意点として、差押命令が会社に届くタイミングによって、どの月の給料から差し押さえるか指定できます。
一般的には「今後継続する給与債権」を差し押さえる形になり、一度申し立てれば以後退職しない限り毎月自動的に差押えが続きます。
仮に相手が一度に滞納分を支払っても、取り下げをしない限り差押えの効力は継続するので、養育費の終期まで給与から天引きという状態に持ち込むこともできます。

相手の反応と対処
給与を差し押さえられると、多くのケースで相手は慌てて連絡を取ってくるようです。
上記のように「頼むから取り下げてほしい」と泣きついてくることもあります。
こうした場合、安易に差押えを解除してしまうと、また支払いが滞る可能性が高いです。
相手が本当に反省して今後はきちんと支払うと約束しても、口約束に戻すのは危険です。
どうしてもと頼まれる場合は、「○○万円を一括支払いし、今後〇日までに毎月入金すること。1回でも遅れたら再度差押えする」という内容の公正証書や合意書を新たに作成させるぐらいの慎重さが必要でしょう。
それでも信用できない場合は、差押えを続行したほうが確実です。

その他の強制執行手段
給与差押え以外にも、相手の銀行口座の預金を差し押さえる方法もあります。
こちらは一度きりの差押えになりますが、相手が退職して無職の場合や、まとまった預金がある場合に有効です。
また、不動産や自動車など資産があれば競売にかけることもできます。
ただし養育費の場合、毎月の支払いを確保する意味では給与差押えが現実的で、相手にとっても「生活費の中から払う」という形なので受け入れやすい面もあります。
銀行預金の差押えはある日突然口座が凍結される形になるためトラブルになりやすく、預金がなければ空振りになるリスクもあります。

強制執行できないケース
相手が無職だったり、勤務先が分からない場合、給与差押えはできません。
また、自営業者で収入が現金商売だったりすると給与という形で差押えできず、銀行口座などを狙うことになります。
さらに相手が転職を繰り返したりフリーランスで収入が不安定だと、せっかく差押えに成功しても職を辞して逃れられる可能性もあります。
ある母親は「元夫が差押えされそうになると転職して逃げ続けた」と嘆いていました。

新制度の活用
2020年以降、強制執行を支援する新たな制度が整備されています。
先ほど触れた第三者からの情報取得手続きでは、裁判所を通じて官公庁や金融機関から相手の財産情報を得られるようになりました。
不動産登記や勤務先情報(日本年金機構経由)、預貯金口座情報(全国銀行協会経由)などを照会できます。
ただし、これを使うには一度自力で強制執行をかけてみて「取れなかった」など一定の要件を満たす必要があります。
また、財産開示手続き(相手本人を裁判所に呼び出して資産状況を申告させる手続き)も強化され、正当な理由なく出頭しない場合等には6か月以下の懲役・50万円以下の罰金という罰則が科されるようになりました。
これまでは開示手続きに応じなくても罰則が軽く実効性に乏しかったのですが、今後は逃げ得を許さない仕組みが整いつつあります。
実際に財産開示命令を活用した方の中には、「元夫が出頭しなかったので即日で罰金決定してもらえ、慌てて向こうから連絡が来た」というケースもありました。

給与差押えをはじめとする強制執行は、養育費未払いに対する最終兵器です。
適切に手続きを踏めば、泣き寝入りしなくても済みます。
もちろん相手との関係は悪化しますし、できれば使いたくない手かもしれません。
しかし養育費は子どもの権利です。
親として子どものためにできることとして、必要なら毅然とした対応を取りましょう。
「差押えなんて厳しすぎるかな…」と悩むかもしれませんが、支払わない方が悪いのです。
実際、差押えされた相手も「子どものためなら仕方ない」と観念したという例がほとんどです。
強制執行を成功させた人たちは皆、「もっと早くやればよかった」「やっと肩の荷が下りた」と安堵の声を上げています。
