時効で消える養育費に注意!未払い分を守るための法的手続き完全ガイド

時効で消える養育費に注意!

養育費が支払われないまま長期間が経過してしまった場合、後からまとめて請求したいと思っても「時効」によって請求できなくなる可能性があります。

時効とは、一定期間権利を行使しないと法律上その権利が消滅してしまう制度です。

では、養育費には具体的にどのような時効期間が適用されるのでしょうか?

ここでは養育費の消滅時効に関する基本知識と、時効を中断(リセット)する方法について解説します。

養育費の消滅時効期間

結論から言うと、養育費の未払い分には5年または10年の消滅時効期間が適用されます。
この違いは「養育費の取り決め方」によって変わります。

  • 公正証書や口頭合意など当事者間の合意で決めた養育費 時効期間は5年です。

これは養育費の各支払請求権が「定期給付債権」として5年で時効にかかると民法で規定されているためです。

離婚時に夫婦間で決めた場合や、公正証書で契約した場合も、取り決め自体は当事者間の合意であることに変わりありませんから、5年と解されています。
  • 調停調書や審判・判決など裁判所で決めた養育費 時効期間は10年です。

これは確定判決等による権利として扱われ、民法上の一般債権の時効10年(※2020年施行の改正民法で原則5年に統一されましたが、判決で認められた権利は10年)となるためです。

調停や裁判で養育費額を定めた場合、各支払い期限到来後10年を経過すると消滅時効になります。

養育費の取り決めがない場合

離婚時に養育費を決めていなかった場合、そもそも過去分については請求権自体がありません。

例えば離婚後5年間放置して「5年前にさかのぼって払ってほしい」と思っても、取り決めがなければその期間の養育費債権が存在しないため、時効以前に請求できないことになります。

ただし現在から将来に向けて請求することは子どもが未成年なら可能です。

過去分については「離婚時に取り決めなかった以上諦めざるを得ない」のが現状です。

以上を整理すると、養育費の未払い分は発生から5年または10年で請求できなくなるということになります。

例えば公正証書で毎月3万円の養育費を取り決めたのに5年間一度も払われなかった場合、最初の数ヶ月分(5年以上前の分)は時効で消えてしまい、残りの直近5年分のみ請求可能、となる恐れがあるのです。

時効の起算点と留意点

養育費の時効は、各支払い期日の翌日から進行します。

つまり毎月分それぞれに個別の時効期間が存在するイメージです。

未払いが累積している場合、古い月から順に時効で消えていくことになります。

例えば2020年1月分の養育費が未払いなら、その翌日から数えて5年後(もしくは10年後)にはその1月分の請求権が消滅します。

2020年2月分はさらに1ヶ月後に時効完成…という具合です。

このように時効は待ってはくれませんので、「そのうちまとめて請求しよう」と悠長に構えていると、気づけば古い分はどんどん時効で消えていた、ということになりかねません。

養育費不払いが発生したら、早め早めに対応することが肝心です。

なお、2020年4月の民法改正で消滅時効が一部見直されましたが、養育費についてはもともと5年とされていたものが改正後も事実上5年で統一されています(判決等は10年)。

改正により「権利行使可能なときから5年」「権利発生から10年」のいずれか早い方というルールになりましたが、養育費は各支払期ごとに権利発生と行使可能時期が一致するため、基本5年と理解して問題ありません。

注意ポイント

・毎月の養育費はそれぞれ個別に時効期間が進行
・古い月から順番に時効で消えていく
・求を放置すると古い養育費ほど時効で消えてしまう

時効を中断・延長させる方法

もう支払われないかもしれないけど、いつか払ってもらいたい」と思いながら放置していると前述のように権利が消えてしまいます。

そこで、時効をストップ(中断)させる方法を知っておきましょう。
主な方法は以下です。

裁判所での請求

裁判を起こして養育費支払いを求めると、その時点で時効は中断します。

調停の申立てや支払督促の申立てでも同様に時効中断(正確には完成猶予・更新)効果があります。

一度裁判所に請求すれば、その請求にかかる未払い分については時効がリセットされます。

判決が出れば今度は判決による権利となり10年の時効になります。

督促や催告(内容証明郵便等)

相手に対して内容証明郵便で支払いを請求することも時効を一時的に猶予させる効果があります。

ただし、催告による時効の猶予は6ヶ月間のみで、その間に正式な裁判等をしなければ結局時効は完成してしまいます。

以前は内容証明で時効中断できると誤解されていましたが、現在は一時猶予に留まる点に注意が必要です。

したがって、根本解決には裁判所を利用する必要があります。

債務の承認

相手が未払い養育費の存在を認めたり、一部でも支払ったりすると、それも時効をリセットする効果があります。

例えば相手から「滞納分を分割で払わせてほしい」と言われて少しでも入金があれば、その時点で一旦時効期間がゼロから数え直しになります。

ただ、相手が素直に承認してくれるケースはあまり多くないでしょう。

以上の方法を駆使し、時効にかからないよう未払い分を放置しないことが肝心です。

特に内容証明を送る場合は、それだけで安心せず必ずその後に調停申立てなど次のアクションを起こしてください。

時効に関するQ&A

最後に、養育費の時効についてよくある疑問をQ&A形式で整理します。

養育費を全く払わず逃げ続ければ、いずれ時効で払わなくて済みますか?

法的にはその可能性がありますが、不払いのまま放置すれば相手も黙っていないでしょう。
内容証明や調停などで請求されれば時効はリセットされます。
何年も行方をくらますなどしない限り、完全に時効逃れできるケースは稀です。
第一に、親としてそのような無責任な行動は許されません。

離婚から10年経って今さら養育費を請求できますか?

子どもが未成年であれば将来分について請求可能です。
過去の期間については取り決めがなかったなら請求は難しいです。
取り決めがあった場合でも、時効で消えていない直近5年(または10年)分までしか基本的には遡れません。
ただし相手が時効を援用しない(主張しない)限り払ってもらえる可能性もありますので、一度専門家に相談すると良いでしょう。

時効が完成した未払い養育費を相手が自発的に払ってくれたら受け取っていい?

時効で法的請求権が消えていても、道義的責任から払うと言ってくれるならもちろん受け取って構いません。
ただし一度時効完成したものは法的には「任意に払っているだけ」という扱いになるため、後から「やっぱり返せ」とは言われないように(本来返す義務もありませんが)一筆もらっておくなどすると安心です。


このように、養育費にも消滅時効があるということを頭に入れておきましょう。

特に受け取る側の方は、「未払いが続いたらすぐ行動」を原則にしてください。

泣き寝入りせず適切な手続きを取れば、権利を守ることができます。