シングルマザー・シングルファザーの皆さんが、養育費について最低限押さえておきたい重要ポイント(常識)をまとめます。

常識1:養育費は子どもの権利であり親の義務である
養育費は元配偶者への「好意」ではなく、子どものためのお金です。
法的にも親には子を扶養する義務があり、離婚後もそれは変わりません。
したがって、経済力に応じて子どもの生活費を分担するのは親として当然の責任です。
受け取る側は「申し訳ない」などと遠慮する必要はなく、堂々と請求して構いません。

常識2:養育費の金額は話し合いで決め、必ず文書に残す
養育費額は双方の収入や子どもの状況に応じて話し合いで決めます。
裁判所の算定表を参考に、公平かつ子どもの利益になるような金額を設定しましょう。
決めた内容は必ず書面で合意します。口約束は厳禁です。
公正証書にするのが理想で、そうすれば強制執行も可能となり不払い抑止効果があります。
公正証書が難しくてもせめて署名捺印した合意書を用意しましょう。

常識3:養育費の支払期間は子どもが社会的に自立するまで
養育費は一般に子どもが成人するまで支払われます。
日本では成人年齢が18歳に引き下げられましたが、養育費については従来どおり20歳前後までとするケースが多いです。
高校卒業時または20歳までを終期とする合意が一般的で、必要に応じて大学卒業(22歳)まで延長する場合もあります。
成年年齢が変わったからといって急に18歳で終了になるわけではありません。
「未成熟子でなくなるまで」が基本です。
取り決め時に終期を明記し、後の誤解を防ぎましょう。

常識4:養育費の相場や決定方法を知っておく
自分のケースで大体どれくらいの養育費が妥当なのか、知識として知っておきましょう。
家庭裁判所の養育費算定表を見れば、おおよその相場が分かります。
チェック 家庭裁判所の養育費算定表はこちら
例えば平均的には月数万円台が多く、収入によっては10万円以上になることもあります。
逆に低所得なら月1~2万円程度の場合もあります。
相場を知れば、相手から極端に低い額を提示されたときに「それでは不足だ」と交渉できますし、高すぎる要求にも冷静に対応できます。

常識5:一度決めた養育費も状況次第で変更できる
将来、収入の変動や子どもの進学など状況が変わった場合、養育費の増額・減額を話し合うことも可能です。
双方合意ならいつでも変更できますし、合意できなくても家庭裁判所に調停を申し立てれば事情の変更が認められる場合に限り変更が命じられます。
例えば支払う側の収入が大幅に減少した、支払われる側の収入が増えてバランスが崩れた、子どもが大学進学することになった等が典型です。
最初に決めた額が永久不変というわけではありません。
困ったときは泣き寝入りせず、適正な見直しを検討しましょう。

常識6:養育費が未払いになったらすぐに行動を
養育費が支払われない事態になったら、「そのうちまとめて払ってくれるだろう」と安易に待たないでください。
時間が経つほど取り立ては困難になりますし、消滅時効も進行します。
特に公正証書や私的合意のケースでは5年で時効消滅するため、古い未払い分から順に請求できなくなってしまいます。
1回でも滞納が生じたら、すぐに内容証明郵便で督促する、電話やメールで期限を区切って支払いを促すなどの対応を取りましょう。
それでも応じない場合は早めに家庭裁判所に強制執行の申し立てを検討します。
公正証書や調停調書があれば裁判なしで差押えできますし、無い場合でも調停・審判を経てから差押え手続きが可能です。

常識7:面会交流と養育費は切り離して考える
「養育費を払わないなら子どもに会わせない」「会わせてもらえないから払わない」といった駆け引きは禁物です。
養育費はお子さんの生活のため、面会交流はお子さんの心のため、どちらも大事であり相手へのご褒美や罰ではありません。
たとえ相手に不満があっても、養育費はきちんと受け取り・支払い、面会も子どものためにできる限り実施するのが望ましい姿です。
法律上も両者は関連付けられていない独立事項です。

常識8:公的制度や支援サービスを活用する
養育費の不払い問題に対して、行政や民間のサポートを積極的に利用しましょう。
市区町村にはひとり親家庭支援の窓口があり、養育費確保の相談に乗ってくれる場合があります。
また、2020年からは養育費の強制執行を容易にするために情報取得手続きが創設され、裁判所を通じて相手の勤務先や預貯金口座の情報を入手できるようになりました。
これにより差押えがしやすくなっています。
さらに、民間の養育費保証会社を利用する手もあります。
一定の保証料を支払えば、相手が滞納した際に代わりに立て替え払いしてくれるサービスです。
公的な制度ではありませんが、どうしても不払いリスクが心配な場合に検討する価値があります。
加えて、法テラス(日本司法支援センター)では養育費問題の無料相談や、弁護士費用の立替制度も用意されています。

常識9:シングル家庭向けの公的支援もチェックする
養育費が十分に受け取れない場合でも、お子さんを育てるための公的支援制度を活用しましょう。
代表的なのが児童扶養手当です。
これはひとり親家庭(主に母子家庭)に支給される国の手当で、所得に応じて支給額が決まります。
養育費を受け取っていても、その一部は収入認定から控除される措置がありますので、養育費をもらうと手当が減るから…といって養育費請求を諦める必要はありません。
その他、医療費助成や住宅手当、子育て支援策など自治体独自の支援もあります。
経済的に厳しいときは遠慮なく行政に相談しましょう。

常識10:諦めないこと、そして協力を惜しまないこと
最後に心構えとして、決して諦めないことを強調します。
養育費不払いは非常に多くの家庭で起きていますが、諦めずに交渉や法的措置を講じた結果、受け取れるようになったケースもたくさんあります。
統計では養育費を取り決めた母子家庭のうち約6割は現在も受け取っているというデータもあります。
まずは取り決めをすること、そして万一途絶えたら諦めず手を打つことが重要です。
また、シングルマザー・ファザー同士の情報交換や助け合いも有益です。
インターネットのコミュニティや支援団体を通じて、体験談やアドバイスを得られるでしょう。
そして、できれば元夫・元妻との間で子どものために協力関係を築けるのが理想です。
養育費をきちんと支払い、必要なら増額にも応じる支払親、そして面会交流や子どもの成長について報告する受取親、そうした協力関係が築ければ、お子さんにとってこれ以上ない環境です。

以上、10項目にわたり養育費の常識を挙げました。
どれもシングルマザー・ファザーの皆さんにとって大切な知識と心得です。
養育費はお子さんの未来を支える重要な要素ですから、適正に受け取り・支払いが行われるよう、親として知るべきことを知り、やるべきことをぜひ実践してください。
困ったときは一人で悩まず、然るべき機関に相談することも忘れないでください。
