養育費の増額・減額は可能?認められる「事情の変更」の条件と調停手続きを解説

養育費の増額・減額は可能?認められる「事情の変更」の条件と調停手続きを解説

離婚時に取り決めた養育費の額が、その後の状況変化によって不適切になってしまうことがあります。

例えば支払う側の収入が大きく減ってしまったり、逆に子どもの進学などで必要経費が増えたりする場合です。

養育費の増額・減額は可能かというと、双方が合意すればいつでも変更可能です。

ただ、片方が一方的に「減らしたい」「増やしてほしい」と言っても相手が同意しなければ簡単には変更できません。

そんなときは家庭裁判所での調停や審判によって変更を求めることになりますが、その場合には「事情の変更」が認められることが必要となります。

ここでは養育費の増減変更が認められる典型的な条件・理由や、手続きの流れについて解説します。

養育費変更が認められる事情の例

民法766条3項では、離婚後の養育費について「必要があると認めるとき」は家庭裁判所が変更を命じることができるとされています。

また民法880条でも扶養義務に関する事項の変更について「事情に変更」があった場合を想定しています。

具体的には、以下のような事情が典型例です。

1. 支払う側(義務者)の事情変更

収入の大幅な減少

勤務先のリストラで失職した、病気やケガで働けなくなった、会社の業績悪化で大幅な減給になった等、やむを得ない理由で収入が減った場合。

無収入になったり大幅減収になったりすれば、家庭裁判所も養育費の減額を認めやすいです。

例えば月5万円の養育費が明らかに支払えないほど収入激減したなら、状況に応じ半額程度に減らす等の判断があり得ます。
支出の大幅な増加

支払う側が再婚して新たに子どもが生まれたなど、扶養すべき家族が増えた場合です。

特に再婚相手との子どもをもうけた場合、先に生まれた子(前妻との子)の養育費について減額を求める例がよく見られます。

法律的には再婚相手との子も実子であり扶養義務がありますから、全体の扶養負担を公平に分配する観点から養育費の見直し(減額)が検討されます。

ただし、新たな家庭ができたこと自体ですぐ減額が認められるわけではなく、収支全体を見て判断されます。

子どもが再婚相手と養子縁組した場合は、前の親の扶養義務は二次的なものとなり免除または大幅減額が認められることもあります。
収入の大幅な増加

減額ではなく増額に関係する事情ですが、支払う側の収入が想定より大きく上がった場合です。

例えば離婚当初は年収400万円だった父親が、その後大幅に昇給・昇進して年収800万円になったような場合では、子どもの養育費も増額を求める理由になり得ます。

算定表上も収入に応じて額が決まるものなので、当初より明らかに支払い能力が上がっている場合、子どものより充実した養育のために額を見直すのは合理的と言えるでしょう。

2. 受け取る側(権利者)の事情変更

受け取る側の収入変化

離婚当初は無職・専業主婦だった母親が、その後就職して安定収入を得るようになった場合などです。

母親の収入が増えればその分自分で子どもの費用を賄えるため、養育費の減額理由となる場合があります。

もっとも、「将来働くかもしれない」というのは離婚時にも予測できる範囲なので、離婚時に無職だったから高額養育費にした場合、後に就職したからといって直ちに減額が認められないこともあります。

ただ、明らかに高収入になった場合(例えば専門職に就いて父親並みに稼ぐようになった等)は調停で減額合意に至ることもあるでしょう。
子どもの養育費負担減

例えば子どもが高校を卒業して就職した場合、もう親の扶養なしでも生活できるとみなされます。

この場合、本来養育費終了時期にも該当するため、まだ支払期間が残っていても、そこで終了または減額を認めることがあります。

実質的には支払終期の問題ですが、取り決めが22歳までとなっていたが子どもが18歳で就職したので終了したい、等の申し出があれば認められやすいです。
子どもの特別な出費増

逆に増額に関わる事情として、子どもが大学に進学した、留学した、あるいは大病を患った等で予想外に費用がかかるようになった場合です。

受け取る側から「子どもの教育費/医療費が増えたので養育費を上乗せしてほしい」という増額請求があることがあります。

これも支払う側の収入に余裕があり、子どものために合理的に必要と認められれば増額が合意・認容される可能性があります。

以上が代表的な「事情の変更」です。

まとめると、収入面の変化と、扶養家族や子どもの状況の変化がポイントです。

ただし注意したいのは、自ら積極的に起こした事情(転職で収入減、フリーランス転向で不安定収入になった等)は減額理由として弱いことです。

あくまでやむを得ない事情である必要があります。

また、面会交流をさせてもらえないから養育費を減らしたいというような主張は認められません。

面会交流と養育費は法律上別問題であり、支払い義務と無関係だからです。

チェック 面会交流と養育費が「交換条件にならない」理由

面会できないことを理由に支払いを減免することはできないので注意してください。

養育費の増減変更手続き

双方が話し合って合意できる場合は、単純に新たな額での支払いに切り替えれば構いません。

可能であれば変更内容を書面(覚書など)に残しておくと後日の誤解防止になります。

問題は相手が同意しない場合です。

その場合は家庭裁判所に「養育費変更調停」を申し立てます。

調停では先ほど述べたような事情の変更があったかを双方から聞き取り、合意点を探ります。

それでも折り合わなければ審判となり、裁判所が判断します。

調停申立てに必要な書類は申立書事情説明書収入を証明する資料(源泉徴収票や課税証明書など)子どもの戸籍謄本等です。

申立費用は子ども一人につき収入印紙1,200円と、連絡用の郵便切手(1,000~2,000円程度)です。

調停の場では、「収入がこれだけ減ったので現状の支払いは無理」「子どもが進学したので必要額が増えた」等、変更を求める理由を具体的に示します。

資料や証拠があれば提出します。

調停でお互い譲らず意見が対立する場合、審判では客観的な事情変化があったかどうかに絞って判断されます。

裁判所が見て明らかな収支変化などが認められなければ、変更は棄却されることもあります。

つまり「大幅な状況変化がなかった」と判断されれば、元の養育費額が維持されます。

増額・減額請求の際の留意点

相手の立場も考慮

減額請求する際は、受け取る側の生活も考慮しましょう。

一方的に「収入減ったから半額にして」と言っても、相手と子どもの生活が成り立たなくなるようでは認められにくいです。

現実的な落とし所を探る姿勢が大事です。

逆に増額を求める際も、相手の経済状況を無視して高額を要求しても通りません。

安易な自己都合で減額しない

自分の都合で転職・退職した結果収入が減った場合など、自己原因で状況を変えた場合は減額は難しいです。

支払いが苦しいから仕事を減らしたい」というのは本末転倒です。

養育費支払いは子どものための最優先義務だという意識を忘れないようにしましょう。

話し合いで妥協点を

調停になった場合、お互いゼロイチではなく譲歩案を提示し合うと解決が早まります。

例えば相手は0を主張、自分は5万円維持を主張なら、間を取って3万円に合意する、といった柔軟性も時には必要です。

争いが長引くほどお子さんにも悪影響ですので、適切なラインを見極めましょう。

まとめ

養育費の増額・減額は状況次第で可能ですが、基本は「大きな事情変更」が条件となります。

むやみに要求しても認められません。

逆に本当に支払側が困窮しているのに放置すると支払い自体が途絶えてしまう恐れもありますから、両親でよく話し合い、必要であれば早めに調停を利用して適正額に修正しましょう。

どちらの場合でも子どもの利益を最優先に考えることが大切です。